第9話 高齢者の訪問看護  地域全体で心身ケア 

「院長、訪問看護をやってみたい」。当院の婦長が熱心な表情で私に訴えてきたのはもう何年も前のことです。当時、個人の肛門専門医院でそんなことはできるわけもないし、私自身その必要性を感じていませんでした。

しかし、自宅で療養するお年寄りは年々増えています。「待てよ、これは他人ごとではないぞ」と思うようになったのは、私が旭川青年会議所で骨髄バンク推進支援運動や街づくりにかかわるようになり、福祉の問題を街づくりの角度から見られたからです。お年寄りの便秘は少なくありません。それが原因で、症状はひどくなくても痔を抱えていたり、肛門の周囲が不潔だったりして、お尻のケアが必要なケースが目立ちます。
今年3月、数人のお年寄りを対象に始めた訪問看護では、生活指導や下剤の投与などを行い便秘を解消、お尻の清潔さも保てるよう努めています。「何度もありがとうを繰り返し、感謝してくれるんですよ」。婦長からそんな報告を受けると、訪問看護を実施して本当によかったと思います。しかし、「そのお年寄りがうれしかったのは、婦長が話し相手になってあげたからでは。もし、そうだとしたら…」。

日本は豊かな国になったと言われます。しかし、それは表面的なものでしかありません。「真の豊かさとは?」と問われても即答はできませんが、社会福祉が充実しだれもが遠慮なく心身のケアを受けられるようなシステムが、自分の住む地域ごとに確立しなければ、本当に豊かな生活を実現することはできないと、私は考えます。高齢者が増え、自宅療養者へのケアは地域全体が背負っていくものという認識が広がっています。一つの医院だけでは限界があるかも知れませんが、できる範囲で真の豊かさを追い求めてみたいと思います。


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